大正時代の英語学習雑誌『新英語』をデジタル化公開


富山大学附属図書館では,大正時代に北星堂から発行されていた英語学習雑誌『新英語』とその附録『新英語讀者小新聞』をデジタル化し,富山大学学術情報リポジトリ「ToRepo」で公開しました。

この『新英語』は中土文庫として,富山大学に寄贈されたもののひとつです。「中土」とは北星堂の創業者である中土義敬(富山市出身)のことで,その遺品です。中土義敬は,Lafcadio Hearn(小泉八雲)の蔵書(後のヘルン文庫)の東京から富山への移送に当たっても大きな役割を果たしました。

今回公開したものは1922年から23年(大正11年~12年)にかけて発行されたものです。英語学習雑誌ですが,取り上げられている題材自体から,当時の時代背景をうかがい知ることのできる資料としても大変興味深いものがあります。

それらのごく一部ですが,次にご紹介いたします。

  • 巻頭記事として,幣原男爵の時事論文(英文)が掲載されています。幣原男爵はその後の外相,戦後の内閣総理大臣,衆議院議長をつとめた幣原喜重郎その人ですが,当時は駐米大使です。本誌によれば,英語の達人でもあったようです。(Vol.6(1), Page 1, 12) このほか,George Bernard Shaw, H. G. Wells, Charlie Chaplin, Arthur Conan Doyle, Bertrand Russellなどがその時代を生きていた人として登場します。
  • "The Day Of The Radiotelephone"という記事でラジオが紹介されています。日本でラジオ放送が始まるのは1925年(大正14)3月22日のことですから,掲載当時,まだ日本でラジオ放送は始まっていません。しかしながらアメリカではすでに,大学の講義なども放送されていたようです。(Vol.6(7), Page 172)
  • 本学附属病院には新聞の自動販売機があり,来院される方や入院患者様にご利用いただいておりますが,この時代のアメリカにはすでにそのようなものがあったようです。写真には「3¢」という文字が見えますが,おそらく1部の値段でしょう。(Vol.6(5), Page 123)
  • 広告のページには,英語レコードの広告があります。当時,学習用の教材として販売されていたようです。(Vol.6(10), 表紙裏, 巻末, Vol.7(5), 巻末) また,「クリスマスの贈物は本に限ります。」という北星堂の自社広告があります。どうやら,わが国でもクリスマスにプレゼントを贈る風習がその当時からあったように見受けられます。(Vol.6(12), 巻末)

今回,デジタル化するにあたり,できる限り下地などのノイズ除去に努めましたが,文字が欠落した部分,不鮮明な部分などがあります。現代の印刷や電子書籍の文字に慣れた目には,少々読みにくいと感じられるかもしれませんが,それも,当時の状況のひとつとご理解いただけると幸いです。

時代は大正末期。第二次世界大戦が始まる前で,その後の戦争の重苦しい雰囲気とはまた違った自由な空気も読み取れるのではないでしょうか。ヘルン文庫をご縁とする中土文庫ですが,Lafcadio Hearnの文章や出版物の紹介,広告も掲載されています。

このようにみてきますと,この『新英語』はいろんな切り口で多方面にわたってご活用いただけるのではと思われます。もし,ご覧いただいた方で欠落ページなどの情報をお持ちで,データの補充にご協力いただけるようでしたらご一報ください。

『新英語』
http://utomir.lib.u-toyama.ac.jp/dspace/handle/10110/11786
『新英語讀者小新聞』
http://utomir.lib.u-toyama.ac.jp/dspace/handle/10110/11792