富山大学附属図書館研修会「新聞・雑誌を使い倒す!―最近の科学報道を題材に―」(報告)


 2013315日(金)、富山大学附属図書館研修会「新聞・雑誌を使い倒す!―最近の科学報道を題材に―」を開催。学内外から28名の方に参加いただきました。お礼を申し上げます。

 講師である林衛先生は、総合科学雑誌『科学』(岩波書店)ほかの編集者経験があり、科学コミュニケーションの研究者です。今回の研修会では、新聞や雑誌の報道の受け止め方について、多くの視点を提示していただきました。研修で印象に残った点をご報告します。

 まず、講師の自己紹介もかねて、『科学』や『日経サイエンス』といった科学雑誌をめぐる次のような話題が提供されました。

  • 本や雑誌が売れない原因を読者や文化状況に求める社内の雰囲気を感じ、本当にこんなことでよいのかと考えた。『科学』では、執筆を依頼の際、“わかりやすく”とお願いするのをやめ、“学問的・社会的に大事なこと”をどう表現したらよいのか打合せするよう心がけた。読者にとって魅力的な誌面になり、数字にも表れた。 
  • 1995年の阪神・淡路大震災の後、阪神地域での直下地震発生の可能性を示す最新の地質断面図を『科学』に掲載した。しかし,ほぼ同様の断面図が、日本で最もよく使われている中学校の理科教科書に1981年から掲載されていた。世界で最も研究と“啓蒙”が進んでいたのに、その内容が共有されてこなかった。社会のしくみを問題にしないとならない。科学者は人々の「理科離れ」を憂えているが、専門の論文ばかり気にして、科学雑誌を読まない(「科学者の科学離れ」)。 
  •  総合科学雑誌を読むことは専門を超えた多様な科学の世界を知ることである(総合科学雑誌の編集者には,雑誌を越えて科学そのものを編集するのだという志が必要である)。

 次に、同じニュースを各新聞がどのように書いているか(またはいないか)を比較。

 20024月に世界を驚かせた「クローン人間誕生か」というニュースの二紙での取り上げ方の違いをめぐって、「科学報道としてどちらが優れていると思うか」という講師の問いかけがありました。グループでの意見交換では、「冷静に報道したA紙の方がよい」「詳しく過程が報道されているB紙の方がよい」など、様々な意見があり、新聞の読み方にもさまざまな観点があることがわかりました。

 林講師は、カントの「自己みずからの悟性を使用する勇気をもて!」とのことばを引き、主体性をもって知識や情報を活用し、必要があれば基礎・基本に立ち返ること、これが重要だとの考えを述べました。

 今回の研修会は小さな机に35名ほどのグループをいくつかつくって受講しました。講師の質問に答えたり、図書館職員・学生・大学関係者と一般の方が交わって、互いの意見を交換したり、参加者ひとりひとりが主体的に考えるよい機会となりました。

 附属図書館では、これからも図書館や蔵書・資料に関することを軸に、大学内外の方にとって学びの機会となるイベントを企画していきますので、ご期待ください。